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att. 文化 - 和菓子を楽しむ
att.JAPAN Issue 31, 2006年11月10日号

和菓子を楽しむ

日本の味といえば、お寿司や天ぷらが有名である。旬の食材を使い、目にも舌にも美味しい和食は、今や海外のレストランでも人気メニューだ。それに対して、和菓子はどうだろう?お茶席で出される伝統的な上生菓子や干菓子を、日本以外の国で味わうことは難しい。日本の伝統文化としての茶道はよく知られているのに、お茶と一緒に供されるお菓子の美しさ、味わいを楽しめる機会は限られているようだ。ならばせめて、日本に滞在している間に、茶室でのお点前や、和菓子店でのお抹茶とお菓子のセットを味わう機会を作ってほしい。この国には、その季節、その土地でしか出会えないお菓子がたくさんあるのだから。

お茶席に登場するお菓子は、主に、主菓子と呼ばれる生菓子と、干菓子の2種類がある。主菓子は材料を火を使って加工した蒸し菓子などの、やわらかくしっとりとしたお菓子を指す。干菓子は、砂糖を主材料とし、型に入れて打ち出した打菓子や落雁である。これらのお菓子は、美しいが一見どれも控えめな姿かたちをしている。淡い色のねりきりや一口で食べ終わるほどの小さな干菓子など、どれも存在を派手に主張するようなものではない。なぜなら、お茶席のお菓子はお茶を美味しくいただくためのもの。お茶会のテーマや季節感を演出する舞台装置の一部であって、色、形、香り、すべてにおいて際立ちすぎてはいけないのだ。

では、舞台装置としての和菓子を楽しむために、私たちはどのような心の準備が必要なのだろうか?茶道家の鈴木宗康氏によると、お茶席のお菓子は、以下のように「五感を満足させるもの」だという。
視覚:お菓子の色や形を楽しむ。
触覚:お菓子の手触り、食感を楽しむ。
味覚:お菓子の、食べ物としての味を楽しむ。
嗅覚:お菓子の香りを楽しむ。
聴覚:お菓子の名前を楽しむ。季節の植物、自然現象などを銘としたお菓子は多い。
このようなことをふまえて考えると、五感と想像力をはたらかせることによって、ひとつのお菓子から、季節感など様々なメッセージを汲み取ることができるのではないか。

お菓子そのものを楽しむとともに、お菓子の成り立ちに目を向けてみるのも面白い。お茶と深いつながりを持つお菓子は、茶の湯の盛んな土地において、古くより発展をとげてきた。各地でそれぞれ異なる背景を持つお菓子に出会うことができるが、中でも、”日本三大お菓子どころ”としてあげられる京都市(京都府)、金沢市(石川県)、松江市(島根県)では、多くのすぐれたお菓子が作られてきた。昔ながらの製法で、何百年も変わらぬ味を作り続けている老舗もある。そんなお菓子に出会った時、その美味しさに驚くと同時に、何代にもわたる人々の努力によって、その味が守られてきたという事実に、深い感動を覚えずにいられない。お茶の味をひきたてる役目を負い、常に控えめなお菓子たちの背景に、波乱に富んだ長い歴史があることを知ると、味わいもまた特別なものに感じられるだろう。
目的の老舗を全て訪ねることができればよいが、時間や距離の問題で、それが出来ない場合は、デパートなど他の店で入手できるお菓子もある。各地の銘菓が東京や他の場所で手に入れることができる。日本滞在中に探されてはいかがだろう。

さて、和菓子を味わうにあたって、「五感で楽しみ、またそのお菓子の歴史を知って楽しみましょう。」という提案をさせていただいたが、「それだけでよいのか?」と言う方もたくさんいらっしゃると思う。「総合芸術といわれる茶道の舞台装置ならば、日本文化の知識が豊富でなければわからないことが多いだろう。」、「素材も味もなじみがないのに、美味しいと感じることができるのだろうか?」と疑問は尽きないだろう。確かに、茶道すべての要素を理解することは日本人にとっても難しいことだし、日本の歴史や自然になじみの薄い人にとって、お菓子の名前や色から季節感を感じることが難しいと感じることもあるだろう。しかし、茶道の基本のひとつである、「茶会の機会を一生に一度のものと心得て、亭主客人ともに互いに誠意を尽くせ」という精神は、どの国のどんな人にでも自然に受け入れられるものではないだろうか。招かれた客は、お菓子、茶碗などそれぞれの道具にこめられたヒントを頼りに茶会のテーマを読みとり、亭主のもてなしに感謝する。そして、その姿勢は今一瞬の時間をいとおしむ思いにもつながっていく。だから、まず、自分の感覚を大切にしてお菓子と向き合ってみよう。お菓子の色、形、香り、食感、味、その名前を吟味していくことに、謎解きのようなスリルを見出すだろう。こうして味わったお菓子の印象は、出会った季節や場所、ともに味わった人々の思い出とともに、強く記憶に刻みこまれるはずだ。

長い歴史を背景に、手間ひまかけて作り出されてきた美しい和菓子。それらは、常に謙虚で、お茶を引き立てる小道具としての立場からはみ出すことはない。決して、あからさまに自己を主張しないお菓子たち。あなた自身の感覚、そして想像力を働かせて、そのメッセージを探りだしてみませんか?


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